3回目の入院(18)看護師さんとのエピソード②それはきっと満月のせいヨ
働き方改革で、3交代制はだいぶ減ったようですが、当時はまだ看護師さんは3交代制でした。
おそらくだいたい
日勤:8:00~17:00
夜勤:16:00~0:00
深夜勤:0:00~8:00
くらいの感じだったのではないかと。
看護師さんは、交代のたびに担当となる方が挨拶に来ます。
これがけっこうドキドキで、親身な看護をしてくれない方が挨拶に来ると、がっかりします。
昼間は一番人手があり、看護師さんもほかの時間帯と比べれば余裕がある様子です。
深夜は最も人手が少ない時間ですが、看護師さんが少ないので、常に走り回っていて、ご機嫌が悪いこともよくありました。
がっかりな看護師さんにあたった晩は、なるべく寝て、やり過ごしていました。
一番、担当看護師さんが気になるのは夜勤の時間帯です。
人手が少ないところに夕飯の食事の介助も加わり、さらに食後のトイレラッシュ、就寝前のトイレラッシュと走り回っています。
この時間帯に親身でない看護師さんが担当になった時は、交代の時間が早く来ないかなあ、と思っていました。長く入院していると、夜勤の休憩時間もだいたい分かり、嫌な担当さんが休憩に行っていそうなときにナースコールすることもありました。
<キレた看護師さんをなだめる>
その看護師さんのことも、あまり好きではありませんでした。
感じのいい親身な感じはあるのですが、行動が伴っていないことが多いように感じていました。
ある夜、夕食私の経管栄養を外しに来たとき、彼女は泣きそうな顔で
「はああっ…! もういやっ!」
と嘆きながら入ってきました。
こんなとき、声をかけていいものか考えながら、きょとんと見ていたら
「あんこさん、ごめん。私もうダメ。今夜は優しくできない……」
と言うのです。
(あらあら、普段から優しくないじゃない(こら))
とか思いながらも、なんて声をかけようかと窓に目を向けたら、大きな満月。
私「あ! 今日は満月なんだよ。ほら見て。満月の時って興奮するんだよ。でもきれいだねえ」
看護師さんは、はっとしたように振り返り
「ほんとだ……きれい……」
と、しばし手を止めて眺め、少し気が紛れた様子です。
私「私もやたらイラつくなあと思ったら、満月だったことあるよ。きっと月のせいだと思ってる(笑)」
看「そうか! 月のせいなんだ!」
すると、周囲の患者さんもカーテン越しに加わります。
患者A「看護師さん、なにかあったの? 大丈夫?」
患者B「誰だって、腹立つことなんてあるわよ~」
看「……。やだ、みんな優しいね。月のせいにしてくれたり、気遣ってくれたり……」
患者の前で、プロ意識を奮い立たせたのか、彼女は普段の様子に戻り、ニコニコちゃきちゃきと仕事に戻りました。
これ以来、私はこの看護師さんも好きになりました。
「優しくできない」という言葉は、「優しくしたい」と思っていなければ出ない言葉です。
仕事の雑さは感じていましたが、まだ発展途中で忙しさについていけてないせいで、根底に思いやりがあれば、これから経験値を増やすごとにプロフェッショナルで素敵な看護師さんになるんだろうなと思いました。
(なんか上からですみません)
<くじけない看護師さん>
当初、脳外に異動してきたばかりで、叱られてばかりいる看護師さんがいました。
私が「優しくて好き」と思っている看護師さんでさえ、その子にはきつい調子で叱っていました。
引継ぎ時には特にいろいろ指摘されて叱られ、叱っていた先輩看護師さんがいなくなると、まだ人工呼吸器で喋れなかった私の耳元で「あんな言い方しなくたっていいと思いません?」とぼやいていました。
「ちょっと変わった子」だったみたいで、普通ならそうしないでしょう、常識的に考えたらそうしないでしょう、ということをするタイプです。怒られるのもわかる、と思うこともありました。
彼女も負けずに「でもこうしたらこうなので、こうした方がいいと思って」とか主張していましたが、「こうするとこうでしょ! だからこうすべきなの!」と言う先輩看護師さんの言うことは、なるほどと納得のいくものでした。
しかし彼女にしてみれば一つ一つの行為の価値観や優先順位の(自分の)常識をくつがえされているのでしょうから、結局、何かするたびにずれていて、叱られていました。
私も処置や看護をされながら、おいおい……(汗)と思うことがよくありました。
とはいえ、だんだん身になっていくらしく、叱られる様子を見る頻度も減りましたし、実際、お世話してもらうのも、いつの間にか安心感を感じ始めました。
ある日の夜勤のとき、寝る前の薬を投与しに来ました。
看「遅くなっちゃってごめんね~、あんこさん起きてた?」
私「(その薬もらわないと眠れないし)起きてたよ」
看「良かった。あのね、今すごくいい気分なの!」
私「(それ、話したいんだ(笑))どしたの?」
看「いやあ、やっぱ、教え方ってあるよね。叱られてもムカつかないっていうか、むしろ、感謝するっていうか。さらに尊敬するね」
私「教え方、うまい人いるよね」
看「そうなの! 今、違う患者さんのところで尊敬する先輩に教えてもらってたんだけどさー、まあ、いつものように(笑)叱られたわけですよ。でも、そのあと、しっかり教えてくれてさあ」
その尊敬する先輩のお名前は聞かなかったんですが、私がぶっきらぼうだけどプロフェッショナルと信頼する看護師さんが来て、その顛末の追加のような指示をしていたので、多分、この人でしょう。
思い起こせば、このぶっきらぼうな看護師さんが、この子を感情的に叱っているのは見たことがありません。普段から愛想はないですが、叱るときも同じトーンでした。
感情的にならないのって、ある意味最強かもしれません。
また、このくじけない看護師さんは、こんなことも言っていました。
「私、好奇心旺盛なんですよ。だから今は看護師してるけど、別のどんな仕事をしても楽しめるし興味を持てると思うんだー。今はこの仕事が楽しいし辞める気はないですけど、いつかは全然違う仕事をやってみるのもいいかなって思っているんです」
あれだけ忙しくて、叱られて、恐らく一部先輩や同僚から嫌われていそうなのに、楽しいから辞めたくないと言えるなんて。
この看護師さんのお母さんは、私と同い年でした。応援したいと思ったのは、言うまでもありません。
ほかの科のことはよく分かりませんが、この病院は、24時間急患を受け付ける病院であるだけでなく、近隣では脳外科に強いとされ、別の病院から緊急で転院してくることもあります。
そこの脳外科病棟に配属されている看護師さんは、前触れもなく運ばれてくる重篤な患者相手に、咄嗟の最善の判断を、日常的にこなしています。
叱られてばかりいたこの看護師さんも、2か月の間で目に見えて成長していました(ほんと、上からだな)
嫌いな人もいたと患者目線で書いていますが、そういう人も含め、総合的にレベルの高い看護師さんでなければ勤まらないと思います。
この病院の看護師さんには、本当にお世話になりました。
それに3回目の入院で、前からの顔見知りもあり、3度目は2か月という長い期間いたことで、看護師と患者だけではない、一人一人と慣れ親しんだ繋がりが持てたように思っています。
楽しくおしゃべりしたり、こっそりお互い相談したり愚痴ったりも出来ました。
もう入院したくはないですが、また会いたい人たちです。
いえ、ほんともう、入院したくないけど。
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☆この記事は2010年代初出のものを身バレ防止のため時期をぼかしてリライトしています。
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