回復期病院⑨~眠れない日々(高次機能機能障害の症状のひとつ)
私が退院する半月ほど前から隣の病室に入ってきた方は、持ち物や着替えも洒落ていて、病前はけっこうイカした初老紳士だったんだろうな、というように見受けられました。
自分の片麻痺をまだ理解していないようで、車いすにも安全帯を付けられていたのですが、ひょいっと立ち上がってしまって、でも車いすに縛り付けられているわ、片足麻痺してるわで、車いすからドシンと倒れる騒ぎを何度も起こしていました。
怒りっぽくなっているようで看護師さんの言うことにも、あまりきかないで歯向かうようですし、仕方なく、リハビリ時間以外は、ベッドに安全帯されて横になっていたりしていたのです。
昼寝しているときにリハビリ時間になっても「眠いからやらない」と拒絶するようで、なだめすかすだけでリハビリ時間が終わってしまったり。
ある日、夜中にドシンという、ものすごい音がして目が覚めました。
隣室のその紳士が壁に何かを投げつけたようです。またうとうとしていると
「たすけてー!」「○○病院に監禁されてます!」「殺される―!」
などと叫び始めたのです。
もちろん、看護師さんがすぐに様子を見に行ったようですが、朝まで断続的に、ドシンドシンという振動や叫び声が続いて眠れませんでした。
病室の入り口は、原則開けてあるのですが、私は耐えられずドアを閉めに行くと、やはり各部屋から覗きに出てる人が結構いて「(そういう症状だとは分かっているけど)まいっちゃうね……」と話していました。
次の日、その部屋の前を通ってみると、紳士は寝ていてカーテンが外されています。騒ぐので、取り払われたのかと思いました。
朝、看護師さんがバイタルチェックに来た時に「昨夜、隣の○○さん、暴れたみたいでみんな眠れなかったんだよ」と話したら、「うん、見てよ、これ」と、看護師さんが差し出した腕には、あざや血の出た傷が。「やられたの!?」と聞いたら、殴るわ、ベッドの柵は投げるわ、カーテンは引きちぎるわで、たいへんだったそうです。
このように暴れる患者さんを、殴られないように押さえつけたりすると『動作抑制』的なものとみなされ、自己防衛もろくにしてはいけないのだそうです。
医療・福祉関係者さん、ほんとに大変です。
そんな日が2,3日続いて、ほかの患者さんから大量に苦情が出たようで、その紳士は寝るときに強めの睡眠薬を処方されるようになり、しばらく静かになりました。
静かな状態が続いたので睡眠薬を軽くしたようなのですが、そしたらまた夜中に暴れるようになり、みんな他の患者さんは眠れない。
でも、本人は夜中騒ぐものだから、昼間は疲れてリハビリしないでずっと寝てるんですよ。
で、家族を呼んで、状況の説明をしたそうです。
この病院は、リハビリのための病院。
みな自由時間も、廊下でリハビリや自主練をしていて、いつもがやがやしています。
私も、部屋の前の手すりで別の患者さんと自主練してたんですが、呼ばれてきていた娘さんらしき人が「もう! ここ、うるさい!」と病室のドアをバタンと閉めて絶句。
いや、ううるさいのはあなたのお父様なんですが……
セラピストさんや看護師さんの話によると、こういう人は初めてではなく、夜中に騒ぐ症状を持つ人がいるそうで、よくある話だそうです。
症状的に、家で素人の家族が相手できるレベルではないし、ほかの患者さんには迷惑になるけど、強制退院させるわけにもいかないのだそうです。
睡眠薬や安定剤も強すぎるのを続けるわけにもいかないし、強すぎるとリハビリも朦朧としてできないそうで。
まあ元々2時間以上連続で眠れない(ほかの患者さんのおむつ替えやトイレナースコールでいちいち起きてしまうから)入院生活ではありましたが、これでさらに睡眠ストレスが増えたのでした。
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☆この記事は2010年代初出のものを身バレ防止のため時期をぼかしてリライトしています。
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